「ふつうの子」が大観衆を味方につけ、奇跡を起こした。

 3点を追う8回1死満塁、佐賀北の打席には今大会2本塁打の3番・副島浩史三塁手。三塁側アルプス席が発する応援のリズムが、球場全体へと広がり、スタンドが揺れる。

 そのアルプス席近くの上空で、副島の打球が高い放物線を描く。1歩、2歩……。歩を緩める左翼手のはるか頭上を、白球が越えていった。

 地響きのような歓声が沸き起こった甲子園で、ダイヤモンドを副島が巡る。仲間に出迎えられ、初めて喜びを爆発させた。「狙っていた外角のスライダーが真ん中に来た。今日、唯一の失投だと思う。打った瞬間、手応えがありました」

 逆転満塁本塁打――。13年前、やはり開幕試合から駆け上がった佐賀商と同じ県から出場した県立校が、一気に頂点へと立った。

 練習環境が恵まれているとは言えない。放課後は午後7時30分までで、試験前1週間は部活動を休む。「野球に打ち込みたかったら勉強もがんばらないといけない」というのが百崎敏克監督の指導方針。どこにでもある、ふつうの県立校だ。

 そんな選手たちが8日の開幕試合で、同校の甲子園初勝利をあげる。巧みなバント安打を足がかりに先制し、副島が今大会1号を放っての完封勝利だった。

 一躍注目されたのは宇治山田商との2回戦。昨夏の決勝に続く延長15回引き分けという熱戦を繰り広げた。先発メンバーの半数以上が170センチに満たない小兵たちが、懸命に本塁を死守した。

 準々決勝の帝京戦では再び延長13回の熱戦を演じる。無失点を続ける久保貴大投手の2度にわたるグラブトスでのスクイズ阻止や、馬場崎俊也中堅手の背走キャッチ。「東の横綱」と堂々と渡り合い、サヨナラ勝ちした。

 佐賀弁の「がばい」は「かなり」という意味。「がばい、すごか(すごい)」。旋風を巻きおこした。

 快進撃の裏には、たゆまぬ努力が隠されている。土台になっているのは徹底した基礎練習だ。「練習時間が短いことはハンディとは思っていない」と百崎監督。久保は冬場にチーム一走り、タイヤを引っぱった。体力をつけることで自信もつく。九州の強豪校と積極的に練習試合を組み、試合後は必ず選手自身が相手ベンチに出向き、よかった点、足りない点を指摘してもらった。

 「甲子園にいくだけではダメ。ベスト8ぐらいに入ろう」。百崎監督は選手に語り、全国のレベルを常に意識させた。帝京戦で二遊間がグラブトスのプレーを見せると、すぐに練習でまねた。好奇心と向上心。殊勲の副島は「甲子園に出て校歌を歌うことが目標だった。自分たちがこのような立場にいることが夢のよう。幸せです」。偉業に気づきはじめたのか、少しこわばった表情で言った。

 「この子たち、こんなに上手だったかなあ」。百崎監督も驚くほどの成長ぶり、はつらつとしたプレーが高校野球ファンの心をつかみ、深紅の大優勝旗もつかんだ。全国の高校球児を勇気づける優勝だった。
arrow
arrow
    全站熱搜

    aichen0109 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()